過去を葬り今日を流れる葬流者…
尾張六一万石の暗君義通を諌めんがため戦い流れる男・刑(おさか)波之進。その赤心至誠を貫く生き様が至高の一作。
蓬髪垢面、陣笠に墨染めの合羽姿、その裸身には亡友7人の名を刻んだ主人公葬流者。1度の活劇シーンで20人からは斬り殺し刺客のはかり事はことごとく見抜き民を苦しめる領主やごろんぼ亡八に大上段から「大義王道」をもって説くと、小池先生が嘘くさいまでに超人に描く主人公の一人であるところの刑波之進。タイトルと名乗り上げのシーンを読んだ時は「そうるじゃあて…また駄洒落だよ(笑)」と呟いた物でした。刺客達のキャラクターやその顛末、ケン月影先生の描線が冴える刺客との死闘、道中で連れ合いとなる下刈り半次郎との物語はもちろん、高い完成度と小池節が楽しめるものの刑の完璧なキャラクターがイマイチおカタくて話に入り込めないと感じていました。
が、後半。そも主君尾張義通が江戸徳川を転覆させ自らが天下に立たんとした野心を諌めて追われた刑が、逆に義通を拉致し供旅で大義に啓かせると大胆な展開になってからが非常に痛快。1人の人間として無力な義通を引き立てながら、単身で尾張や公儀隠密を相手に回して本懐を遂げんとする事で前半と違い刑の超人ぶりがしっかりと物語に活力を与え、義通が旅の途中少しずつ人間性と為政者の自覚を、そして刑との信頼を芽生えさせていく姿が一種のビルドゥングスロマンとして読者を引き込んでいきます。木地師や活法使いなど小池先生の博識から出てくる小道具も刑の壮絶な忠誠を引き立てる技。文句無く傑作です。
殿!
東の波さかしらに西の波おだやかに はた南の波ゆるやかに北の波渦まくとも 海たるに変わりなく…
東の波西に移り北の波南に寄せ 大波小波東西南北遠近簡錯すとも 大海に変わることなし
大義王道もまた然り いかなることあれど大義は大儀 王道は王道たるに変わりなく
まどわされまするな自信をなくされまするな!大波小波押し寄せるともひるみあそばしますな
(小池作品は声に出して読みたい名台詞が多すぎ!)